至福の時 ~戸澤哲夫ヴァイオリン名曲コンサート~ 2010


4月24日のコンサートも無事に終わり、正直ホッとしているところです。結婚式場のチャペルでの初のコンサートで、一度もこの地で開催したことのないクラシック音楽、もちろん演奏者お二人のファンは沢山いらっしゃいますが、地元のお客様がどのくらい来て下さるか全く見当もつきませんでした。 それでも、私の中に確固とした動かぬ自信があったのは、この場に足さえ運んで頂ければ必ずやお二人の演奏を好きになって下さるに違いないという、戸澤哲夫さん、小川由希子さんへの信頼と、作り出す音楽の完成度の高さ、揺ぎ無さ、そして美しさ。
音楽は聴く人それぞれの世界へ、一瞬にして連れて行ってくれるものです。 私の記憶の中で最初に西洋音楽に圧倒されたのは、映画「ヴェニスに死す」の冒頭、ダーク・ボガード扮するアッシェンバッハ教授が、ヴェニスに船に乗ってやってくるシーンです。 この時流れているのが「マーラーの交響曲第5番第4章アダージェット」。1971年に完成した作品ですが、私が見られたのはそれから少し経った中学生の時で、レンタルビデオもDVDもない当時は、どうしても見たければ都内に出て行くしかなく、封切り時は小学生でこの映画の情報さえ知らなかったはずです。
ところが1976年に監督のルキノ・ヴィスコンティが亡くなり都内でヴィスコンティ映画祭が開催されたと記憶しています。 たぶんそれを、映画雑誌で知り、今見に行かなければ一生見られないような気がして、必死の思いで映画館に駆け付けたような気がします。もう、どこの映画館だったか全く覚えていませんが、入れ替えなしだったので、満員の客席で座ることもできず、一回目は通路にチラシを敷いてスクリーンに釘付けになっていました。 オープニング静かにキャスト、ディレクターの文字が浮かびバックにこの上もない美しい旋律が流れていました。 それは圧倒的で音楽がこんなにも心を揺さぶり、行ったこともない西洋の地を懐かしく、悲しく、愛しい気持ちで感じたことはありませんでした。 まるで、前世はイタリア人だったのじゃないかしらと、とんでもない勘違いをして、夢見がちの「乙女」(当時)はうっとりと遥かな西洋に強い憧れを抱いたわけです。 得も言われぬ美しい曲が、マーラーの曲であるのはずっと後から知り、あれはマーラーからの甘いラブレターだったのだと、クラシック音楽を勝手に理解していました。 
あれから、随分時が流れクラシックについての教養も造詣も一向に深くなりませんが、聴いた者すべての空気を包み込む「音楽」というとてつもない力と、魅力には更に惹きつけられているのは事実です。
24日のチャペルでのコンサートは、手探り状態での開催でしたが、グリーンパレス飛鳥の方々が、私の呟いた一言に疑いもせず新しい事への挑戦と、リスクを恐れず準備と開催に一丸となって下さった事を、本当に心の底から感謝してやみません。
そして、決して十分でない会場で演奏をして下さった、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団コンサートマスターの戸澤哲夫様、ピアニストの小川由希子様の素晴らしい演奏と、沢山の行き届かぬ事への忍耐に感謝しています。
更に、お客様にも十分な配慮、サービスが出来ず申し訳なく思っていますが、これに懲りずにまたいらして頂けたら、今度はもう少しリラックスして聴いて頂けるよう、努力したいと思っております。 それでも、あらゆることを許して下さって最後まで楽しんでいって下さった事を、感謝いたします。 クラシック音楽ファンの方、初めて間近で聴いて下さった方、ライブはめったに聴かない方といろいろな方々がいらして下さいました。 皆様がそれぞれに、「音楽」を楽しみ思い思いの印象や思い出を作っていってくださったら、企画したものとしてはこれ以上の喜びはありません。 ただひたすら、感謝の気持ちでいっぱいです。

「音楽をきくたのしみは、包まれ、抱擁され、刺されることの純粋なたのしみではなかろうか。命令してくる情感にひたすら受動的であることの歓びではなかろうか。いかなる種類の音楽からも、私は解放感を感じたことがない。」(小説家の休暇) これは自意識と自己顕示欲の権化のような三島由紀夫がエッセイの中で書いている、音楽に対する思いですがこれは逆に言えば、もし単純にその純粋な楽しみに身を任せる事が出来れば、これほどの喜びと幸福はないということを言い表してもいます。
三島は純粋でありながら、ひねくれ者でもあったから、このような表現をしていますが、実際は音楽のとてつもない力を知り、感じ、だからこそ恐れていたのでしょう。 自分でさえコントロールできない感情を音楽が呼び覚ましてしまうのですから。

 

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